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都市伝説? 松尾芭蕉のブロンズ像が動く瞬間! 深川を散歩するなら芭蕉庵史跡展望庭園が面白い

江戸の運河・小名木川が隅田川と合流する地点に俳聖・松尾芭蕉(1644~1694年)のブロンズ像があります。

この芭蕉像は昼と夜とで顔の向きが変わる仕掛けがあって、できた当初は「あの芭蕉像は夜に動きだす!」とまるで都市伝説のように語られました。

『おくの細道』の舞台である東日本を中心に、数ある芭蕉像のなかでも可動式のものは珍しいでしょう。

ならばその動く瞬間を見届けよう。芭蕉ゆかりの深川を歩いてみました。

芭蕉が暮らした草庵と芭蕉稲荷

月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人也

松尾芭蕉は紀行文『おくの細道』の冒頭で、移りゆく時の流れを旅人に例えたわけですが、芭蕉の旅立ちは深川なくして語れません。

古池や 蛙飛び込む 水の音

俳句の代名詞といえるほど広く知られ、松尾芭蕉を代表する句です。これは芭蕉が『おくの細道』へと旅立つ前に暮らした深川芭蕉庵で詠んだもの。

深川芭蕉庵とは芭蕉のパトロンでもあった俳人杉山杉風(すぎやまさんぷう/1647~1732年)に提供された草庵で、その位置は現在の芭蕉稲荷だとされます。

それというのも大正6年(1917)9月、台風による高潮のあと、芭蕉が大切にしていた石の蛙(かわず)が当地より出土したからです。

芭蕉稲荷神社。
境内には芭蕉庵跡の碑が。

当時の芭蕉庵一帯は草の生い茂る侘しい場所。松尾芭蕉は俳諧の宗匠としての地位を捨てるかのように日本橋小田原町(現在の日本橋室町1丁目付近)から転居してきました。

それはまさに隠遁ともいえるもので、深川は何かしらの決意と覚悟を持って選んだ土地だったのではないでしょうか。以後の芭蕉は何度も旅に出ています。

江戸切絵図『深川絵図』(嘉永2-文久2年刊)を見ると、1850年ごろ、芭蕉庵は松平遠見守の屋敷内に取り込まれていたことが分かる。
江戸切絵図『深川絵図』(部分)の拡大図。松平遠江守屋敷内に「芭蕉庵ノ古跡庭中ニ有」と見える。

深川を去り『おくの細道』へと旅立つ

漂泊の歌人・西行法師の500回忌が元禄2年(1689)のことでした。この年に『おくの細道』への旅立ちを決めた芭蕉は、深川の芭蕉庵を引き払うと、杉山杉風の採荼庵(さいとあん)で出発までの時を過ごしています。

そこでは門人たちとの別れを惜しみました。

現在、採荼庵跡に再現された小屋があり、縁側に腰かける芭蕉像を見ることができます。隣に座って写真撮影ができると、芭蕉ファンの撮影スポットにもなっていますね。

『おくの細道』への旅立ちは芭蕉46歳のとき。

杖を片手に旅装束の芭蕉像。総距離2300㎞にも及ぶ『おくの細道』は、深川からの旅立ちでもありました。

旧暦で3月27日(新暦5月16日)、仙台堀川から大川(隅田川)をゆく舟に乗った芭蕉は弟子の曽良(そら)とともに川を遡上します。

「千じゆと云所にて船をあがれば前途三千里のおもひ胸にふさがりて幻のちまたに別離の泪をそゝぐ

行春や鳥啼き魚の目は涙(ゆくはるや とりなきうおの めはなみだ)


是を矢立の初として、行道なをすゝまず。人々は途中に立ならびて、後かげのみゆる迄はと、見送なるべし」

(おくの細道)

千住で舟から下り立った芭蕉。当地を『おくの細道』への出発地とすると、一週間ほど滞在して句を詠み、人々に見送られながら旅立っていきました。

ところで、芭蕉が書いた「千じゆと云所」について。『おくの細道』の出発地が千住だったことに疑いはありませんが、その正確な地点が千住大橋北岸の足立区側か南岸の荒川区側かはっきりしません。

そのため、両区において、どちらの区側から出発したかという主張が繰り広げられ、その決着はいまだつかず。

心情的には芭蕉庵のある深川から旅が始まったとしてもいいと思いますが……。

人知れず地味に動く芭蕉像がかなり面白い

このように深川とは『おくの細道』への旅立つ芭蕉とゆかりの深い場所。冒頭に書いた動く芭蕉像は芭蕉庵があったとされる芭蕉稲荷のすぐ近く、芭蕉庵史跡展望庭園にあります。

芭蕉庵史跡展望庭園の入口。

まるで隅田川を見ながらお茶でも飲んでいるような芭蕉さんですが、これが台座の上で回転するのです。

そのタイミングは夕刻。17時になると川下の小名木川のほうへと向きを変え、22時にもとの位置にへと戻ります。

展望庭園の開園時間が9:15~16:30のため、動く様子を間近で見ることはできませんが、展望庭園下の遊歩道から眺めると、その瞬間を見ることができます。

台座の回転とともにライトアップされるので、日暮れが早い時期だと暗闇から芭蕉像が浮かび上がるようです。何も知らずに見ると、ちょっと驚くのではないでしょうか。

その様子を下記の動画でご覧ください。

音は静か。しかも、誰も見ていないところでひっそりと動きます。もともと人通りの少ない場所ですから、これは都市伝説になってもおかしくない。

この芭蕉像がある芭蕉庵史跡展望庭園は江東区の芭蕉記念館分館とのことで、本館にあたる芭蕉記念館が近くにあります。

こちらは芭蕉に関する史料が充実した施設で入園料は大人・個人で200円とお得な料金。

深川を散歩する際は、ぜひ芭蕉史跡展望庭園の芭蕉像をご覧ください。動く瞬間には思わず笑みがこぼれるはずです。

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