歴史と文化のトリビア

夏の風物詩? 彩り美しい「花手水」の意外な歴史

Trivia!

花手水とは手水鉢に花を浮かべることではなかった

芝手水に雪手水、塵手水。手水にいろいろな方法があった

手水鉢(ちょうずばち)に浮かぶ色とりどりの花。

涼やかで清らかな水が花の美しさを強調して、手水鉢がフォトジェニックな空間に変わります。近年、夏の寺社でよく見かけるようになりました。

この光景を「花手水」と呼びますが、最近になって知った方も多いのではないでしょうか。そもそも花手水は昔からあった風習なの? そんな疑問から花手水の歴史を探ってみました。

花手水の発祥は京都の楊谷寺?

花手水と関連してよく登場するお寺が京都にあります。柳谷観音楊谷寺(やなぎだにかんのん ようこくじ)です。長岡京市のホームページを見ると「花手水」発祥のお寺と紹介されています。

あじさいで知られるお寺なので、手水鉢にあじさいを浮かべた画像が掲載され、SNSでも話題になったことが書かれています。SNSとは、主にはInstagramのことでしょう。花手水は「映え」ますからね。

Instagramの日本語版がリリースされたのは2014年、楊谷寺の花手水が大注目を浴びたのは2017年のことです。2017年といえば「インスタ映え」が流行語大賞になった年です。

楊谷寺の美しい花手水はインスタ大ブームのなかで全国に拡散され、当時は手水鉢に花を浮かべる寺社の存在が珍しく、花手水の代名詞は楊谷寺と認知された経緯が想像されます。

浅草神社の花手水

さらに、楊谷寺の花手水の由来を探ると「数年前の住職交代を機に定期的にお花を入れるようになりました」とHPに書かれています。新住職の普山(新住職が初めてその寺に入ること)が2017年のことでした。

ということは、2017年以前に手水鉢に花を浮かべる寺社はなかった?

そんなことはありません。奈良県明日香村の岡寺(龍蓋寺)では、天竺ダリアを池に浮かべる「華の池」が人気でしたし、2016年の同寺によるSNS投稿では手水鉢に花が浮かぶ様子を見ることもできます。

いずれにしても手水鉢に花を浮かべる花手水の歴史は、近年、根付いた風習だと考えられ、岡寺を花手水の先駆けと見ることもできるでしょう。

花手水とは清めの行為だった

意外に思われるかもしれませんが、花手水の本来の意味は、手水鉢に花を浮かべることではありませんでした。

野外など水のない場所で手を清める際に、草花で代用する行為を「花手水」と呼んだのです。実はここに日本文化の豊かで面白いポイントがあります。

「手水」という言葉を辞書で引いてみると、手や顔を洗う水という意味があります。寺社においては、参拝を前に手や顔を洗い清めることといった意味もあります。

神仏を前にするならば自身を清めておく。手水は神仏を大切にする日本人には欠かせない行為で、穢れを落とす禊を簡略化したものとも言えます。

ところが、場合によって肝心の水がないことも。そんな時、いったいどうすればいいのか。草花を代用して清めることを昔の人は行ったわけです。

鎌倉の鶴岡八幡宮の花手水

花に芝、雪や塵、手水の豊かな文化

草花を代用する手水は「花手水」と呼ばれるだけではなく「草手水」や「芝手水」と呼ばれることもあります。さらには「雪手水」という美しい言葉もあります。これはもちろん、雪を代用した手水。

さらにさらに「塵手水」なんて言葉も。手を清めるのに草花、雪すらないとき、空中の塵をひねるようにして手を洗うまねをしたというから、日本人の想像の豊かなこと。

そして、この塵手水が相撲の作法のなかにもあるのです。

土俵に上がった力士が取り組みをする前に蹲踞(そんきょ)をします。その時、手を二回すり合わせて拍手を一回打ち、両手を左右に大きく広げて手のひらを反す所作を行います。これを塵手水というのです。

相撲の歴史は古事記や日本書紀にその始まりを見ることができます。土俵とは神聖な場所で、力士が拍手を打つのも土俵には神が宿ると考えられるからです。

このように、美しい花手水の歴史を探ってみると、日本文化の深みを垣間見ることができました。

最近は夏といわずに秋でも手水鉢に花や紅葉を浮かべる寺社があります。日本全国で四季折々の「花手水」が楽しめるようになるといいですね。


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